プロパンガスをやめたら設備費を請求された。最高裁は「全部無効」と判断しました
プロパンガスの会社を替えようとすると、「設備費の残りを払ってください」と言われることがあります。
このサイトでも無償貸与と、2024年に変わった法律のことで、「すでに結ばれている契約の残債や撤去費が自動的に消えるとは、公的資料には書かれていません」と書きました。2026年9月の時点では、それが正確でした。
そのあと、最高裁の判決が出ていました。
2025年(令和7年)12月23日、最高裁判所第三小法廷が、この種の条項を全部無効と判断しています。裁判官全員一致です。
この記事は、裁判所が公開している判決文そのものを読んで書きました。何が無効になったのか、そして何が無効にならないのかを整理します。
私は弁護士ではありません。判決文を読んで、書いてあることを書いてあるとおりに並べたものです。 あなたの契約がどうなるかの判断はしていません。契約書の中身は1件ずつ違います。 請求を受けている方は、消費者ホットライン 188(局番なし)か弁護士にご相談ください。
何があった裁判か
事案は、よくある形です。
| いつ | 何が起きたか |
|---|---|
| 令和元年6月 | 建売の戸建てを購入。売主から「指定のLPガス会社から供給を受ける必要がある」と説明される |
| 令和元年7月 | そのガス会社と供給契約。設備費21万円は請求しない代わりに、10年以上の供給という条件 |
| 令和3年6月 | 別の会社に切り替えた(2年で解約) |
| そのあと | ガス会社から17万3,775円を請求され、裁判になった |
契約書にあった計算式は、こうです。
| 請求額 | 21万円 −{21万円 × 0.9 ×(供給開始日から供給終了日までの経過月数 ÷ 120)} |
10年(120か月)使えばほぼゼロになり、早くやめるほど高くなる仕組みです。2年でやめたので、17万円余りが残りました。
一審はガス会社の請求を認めませんでしたが、二審はガス会社の請求を認めました。そこから最高裁です。
最高裁は「これは違約金だ」と言いました
ガス会社の主張は「設備を付けた対価だから、払ってもらう約束だ」というものです。二審はこれを認めました。
最高裁は、認めませんでした。
判決文は、まずこう書いています。
本件設置費用は、本件供給契約を獲得し、これを長期間維持するために先行投資された費用ということができる。
そして決め手になったのが、「10年経ったあと、ガス料金は安くなるのか」という一点です。
10年経過後には上告人が被上告人に支払うべきガス料金が減額されるという定めはなく、本件設置費用とガス料金との関係は明確にされておらず、本件設置費用がガス料金から回収されることになっていたのかも明らかではない。
設備費を回収し終わったはずの11年目以降も、ガス料金は下がらない。それなら「ガス料金で回収していた」という説明は成り立たない、ということです。
結論はこうなりました。
実質的にみると、解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金の定めとして機能するものということができる。
設備の代金ではなく、やめさせないための違約金だという認定です。
「会社に損害は生じていない」と言い切りました
違約金だと認めただけでは、まだ無効になりません。消費者契約法9条1号は、「平均的な損害」を超える部分だけを無効にする条文だからです。
ではガス会社に、いくらの損害が生じたのか。最高裁は「ゼロ」と判断しました。
理由は2つです。1つめ。
被上告人において、ある契約者に係る消費設備の設置費用は、契約者全体から得られるガス料金から回収する仕組みとなっていたものというべきである。
2つめが、プロパンガスならではのところです。
LPガスの価格に法令上の規制がなく、LPガス販売事業者は自由にガス料金を設定することができる
この2つを合わせると、こうなります。
設置費用が未回収となったことの負担を他の契約者に転嫁することが可能になっていたといわざるを得ない。
つまり、あなたがやめて取りそこねた分は、残っている他のお客さんの料金に乗せられる。だから会社は損をしていない——という理屈です。
本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴い被上告人に生ずべき平均的な損害は存しないというべきである。
本件条項は、その全部について消費者契約法9条1号により無効となるというべきである。
一部ではなく、全部です。
同じ日に、配管についても判断が出ています
判決文の中で触れられています。
最高裁令和6年(受)第1373号同7年12月23日第三小法廷判決は、屋内配管が原則として戸建て住宅に付合するものであることなどについて判断を示している。
家の中の配管は、原則として家の一部になる=家主のもの、という判断です。同じ日に2つ出ています。
ここからが大事です。無効にならない場合があります
「最高裁が無効と言ったから、もう払わなくていい」と読まないでください。判決自身が、はっきり線を引いています。
裁判長の林道晴裁判官が、補足意見でこう書いています。
三部料金制の下、家主が月々負担すべき設置費用の額を基本料金及び従量料金と区別して請求するような場合には、本判決の射程は当然には及ばなくなるものと解される。
「三部料金制」というのは、ガス料金を基本料金・従量料金・設備費の3つに分けて請求するやり方です。液化石油ガス法の施行規則16条15号の7で義務づけられ、2025年(令和7年)4月2日に施行されました。
今回の判決が無効としたのは、設備費とガス料金の関係をわざと曖昧にしていた契約です。
| 契約のかたち | 今回の判決は |
|---|---|
| 設備費がガス料金のどこに入っているか分からない(旧来の無償配管) | この判決が直接あてはまる形 |
| 設備費を基本料金・従量料金と分けて毎月請求している(三部料金制) | 射程は当然には及ばないと補足意見が明言 |
自分の検針票が3つに分かれているかどうかが、分かれ目になります。検針票の読み方は検針票のどこを見れば、料金が高いか分かるのかに書きました。
なぜこの商慣行が問題にされてきたか
補足意見には、背景も書かれています。
家主が短期間で解約しようとすると高額な設置費用を一挙に支払うことを余儀なくされるため、LPガス販売事業者を選択する自由を阻害するおそれがある
そして、国の動きにも触れています。
令和6年7月2日に改定された液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針において、今後、無償配管の商慣行を行わない方向で取り組んでいくことが望ましい旨が明記されるに至った
指針で「やめる方向が望ましい」と書かれ、その後に最高裁が条項を無効にした、という順番です。
補足意見は、最後にこう締めくくっています。
LPガス販売事業者においては、今後、三部料金制を徹底するなどし、ガス料金の透明化を図ることが望まれるところである。
この記事を読んで、何ができるか
結論を急がないでください。できることを3つだけ書きます。
| やること | |
|---|---|
| 1 | 契約書を探して、解約時の精算の条項を読む。「10年」「残存」「逓減」といった言葉を探す |
| 2 | 検針票を見て、設備費が分かれて書かれているかを確かめる(三部料金制かどうか) |
| 3 | 請求を受けている・受けそうなら、消費者ホットライン 188 に電話する。無料です |
この判決は、あなたの契約を自動的に無効にするものではありません。裁判所が1つの契約について判断したものです。ただ、同じ理屈が当てはまる契約は、かなりの数あると思われます。
そして、切り替えを勧める会社にこの話を聞いても、あまり意味がありません。彼らは切り替えてもらうことで紹介料を得る立場です。公的な窓口のほうが、立場として中立です。
まとめ
| 判決 | 最高裁 第三小法廷 令和7年12月23日(令和6年(受)第204号)・裁判官全員一致 |
| 争い | 10年以内に解約したら設備費21万円を逓減式で払え、という条項 |
| 判断 | 設備の対価ではなく違約金。しかも平均的な損害は存在しないから全部無効(消費者契約法9条1号) |
| 決め手 | 10年経ってもガス料金が下がらない=設備費とガス料金の関係が不明確。他の契約者に転嫁できる |
| 同じ日 | 別の判決で、屋内配管は原則として戸建て住宅に付合する(家主のもの)と判断 |
| 限界 | 三部料金制で設備費を分けて請求している場合は、射程が当然には及ばない(補足意見) |
| やること | 契約書を読む/検針票が3つに分かれているか見る/188に相談する |
出典
- 最高裁判所第三小法廷 令和7年12月23日判決(令和6年(受)第204号 残存費用等請求事件・判決全文PDF)
- 消費者契約法(消費者庁)
- 液化石油ガス法施行規則の改正(三部料金制・2025年4月2日施行/経済産業省)
2026年10月29日に、裁判所が公開している判決文のPDFを読んで書きました。引用はすべて判決文の原文です。この記事は法的な助言ではありません。個別の契約についての判断はしていません。請求を受けている場合は、消費者ホットライン 188 か弁護士にご相談ください。この記事に広告は入れていません。